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上記の作品とは全く着眼点が異なる作品として[[山田正紀]]の『[[機神兵団]]』がある。[[エイリアン]]から回収した技術で[[大日本帝国]]を初めとする列強各国が巨大[[ロボット]]「機神」を開発して戦うという作品。SF色の強い作品で、ストーリーの面白さから高い評価を受けて第26回[[星雲賞]]を受賞し、[[アニメ]]化もされている。
上記の作品とは全く着眼点が異なる作品として[[山田正紀]]の『[[機神兵団]]』がある。[[エイリアン]]から回収した技術で[[大日本帝国]]を初めとする列強各国が巨大[[ロボット]]「機神」を開発して戦うという作品。SF色の強い作品で、ストーリーの面白さから高い評価を受けて第26回[[星雲賞]]を受賞し、[[アニメ]]化もされている。


その他、主な架空戦記作家に[[林譲治]](『[[兵隊元帥欧州戦記]]』など)、[[橋本純]](『[[波動大戦]]』など)、[[青木基行]](『亜欧州大戦記』など)、[[荒川佳夫]](『デュアル・パシフィック・ウォー』など)、[[中里融司]](『戦艦越後の生涯』など)がいる。また、戦国時代を扱った架空戦記作家には[[桐野作人]](『覇戦 関ヶ原』など)、[[工藤章興]](『反関ヶ原』など)がいる。
その他、主な架空戦記作家に[[林譲治 (作家)|林譲治]](『[[兵隊元帥欧州戦記]]』など)、[[橋本純]](『[[波動大戦]]』など)、[[青木基行]](『亜欧州大戦記』など)、[[荒川佳夫]](『デュアル・パシフィック・ウォー』など)、[[中里融司]](『戦艦越後の生涯』など)がいる。また、戦国時代を扱った架空戦記作家には[[桐野作人]](『覇戦 関ヶ原』など)、[[工藤章興]](『反関ヶ原』など)がいる。


===志茂田景樹と霧島那智===
===志茂田景樹と霧島那智===

2006年10月10日 (火) 18:44時点における版

架空戦記(かくうせんき)は、仮想戦記(かそうせんき)もしくはIF戦記(いふせんき)、バーチャル戦記などとも呼ばれる小説漫画等の戦記の一ジャンルである。

基本的に過去の戦争に関連した歴史や、その転換点となった戦いの推移・結果が史実と異なっていたらどうなっていたであろうか、という架空の歴史を前提に描かれるものと、未来の戦争をシミュレーションするものの二系統がある。

特に過去の歴史を題材に描かれる場合、注視しなければならないのは、実在する歴史的な、特に計画資料などで、もしやもするとそれが実行されていたかもしれない事件、事由を題材にしたものと、歴史的資料や事実確認が不確定な荒唐無稽なものや、まったくの作者自身の想像によるような完全な娯楽作品になっている作品のような物があり、特に前者の場合、後者と比較して、学術的な資料的価値が高い場合のものもあるため、一概にひとくくりに論じられない場合があるので注意が必要である。また、後者の例に多いが、現実にはありえない超兵器が登場したり、安易に過去に未来のテクノロジーを持ち込むなど、あまりに一方的に作家の夢想の具現化を描く作品の類は、しばしば「妄想戦記」などと揶揄されることがある。

架空戦記の源流

未来の戦争をシミュレーションするものとしては、1887年明治20年)に高安亀次太郎がロシアとアメリカの対立を描いた『世界列国の行末』、同じく1887年の南進論を盛り込んだ須藤南翠『旭章旗』などが先駆けとされている。戦争の相手国は、ロシア中国ドイツなど時代背景や創作の動機により様々だった。明治期には南進論を受けたアジアを舞台にした軍事冒険小説が中心となり、架空戦争というよりは冒険小説の傾向を強くして、押川春浪海野十三らが独自の世界を築き上げ一時代を作った。最も多く書かれたのは、将来起こるであろう日米による未来戦争をテーマにした小説であり、第二次世界大戦前の昭和初期の1930年代にかけて数々の作家によって書き継がれた。海軍少佐福永恭助の1934年の『小説日米戦未来記』など、作者のほとんどは軍人で、警鐘を鳴らすため政治的主張を込めたものが多く、小説としては概して出来が悪いと評される。翻訳ものにも、1897年にはアメリカ海軍ハミルトン大尉の『日米開戦未来記』、1930年にアメリカ陸軍エリオット少佐による『米国武官の見たる日米未来戦』といったものがあった。これらは、日本SFの一つの潮流と後の研究者から評価を受けている。

第二次大戦で敗戦を迎え、欧米SFの影響を強く受ける形で、日本SF界は再出発。サブジャンルとして「歴史改変」を扱った物が日本SF界にも早くから導入され、日本においては小松左京の『地には平和を』(1961年)や豊田有恒の『モンゴルの残光』(1967年)、高木彬光の『連合艦隊ついに勝つ』(1971年)などにまで遡ることが出来る。1971年には半村良の『戦国自衛隊』が発表された。陸上自衛隊員1個小隊戦国時代へタイムスリップする物語で(史実と微妙に異なるパラレルワールド)、天下統一への過程が軍事シミュレーション的であった。本作は1979年に映画化されて大ヒットしている。(タイムトラベルパラレルワールドの項目も参照されたし)。

1978年に元NATO軍司令官ジョン・ハケットの『第三次世界大戦 -1985年8月』がベストセラーになった。冷戦下という時代背景もあり、その後、1970年代終わりから1980年代はじめにかけて二見書房第三次世界大戦シリーズ(『第三次世界大戦 日本海封鎖せよ! 』『第三次世界大戦アジア篇 中ソ戦争勃発す! 』『ソ連軍日本上陸! 』『国後島奪回せよ! 第三次世界大戦米ソ激突す! 』など)をはじめ多数の第三次世界大戦ものが出版された。これらの作品の多くは軍事ジャーナリストによって書かれSF色はなく、近未来軍事シミュレーション小説であった。この第三次世界大戦ブームが後の架空戦記ブームに少なからぬ影響を与えたと考えられる。

架空戦記ブーム

いわゆる架空戦記の嚆矢とされるのは檜山良昭の『日本本土決戦』(1981年)に始まる本土決戦三部作であろう。そして、ブームに直接火をつけたのが1988年に出版されたタイムスリップものの『大逆転!ミッドウェー海戦』(自衛隊護衛艦ミッドウェー海戦に介入)、『大逆転!レイテ海戦』(現代の日ソの潜水艦レイテ沖海戦に介入)、『大逆転!戦艦「大和」激闘す』(現代の沖縄県太平洋戦争にタイムスリップ)の大逆転シリーズである。従来の作品がタイムトラベルというSF的ギミックをテーマにしていたのに対して、桧山の作品ではタイムトラベルは歴史改変の単なる小説的手段であり、なぜタイムトラベルが起きたかという説明はほとんど(時には全く)なく、作品は桧山の豊富な軍事知識による戦闘描写が主であった。SFが低迷し始めていた時期であり、新しいジャンルの可能性を見い出した出版各社は続々と同様の歴史改変モノを出版し始めた。そして、荒巻義雄の『紺碧の艦隊』シリーズ(1990年1996年)が爆発的ヒットを遂げた。やがて、歴史改変にタイムトラベルを介さない(もしくは何らかの外部からの介入をにおわせるが本筋とはほとんど関係ない)軍事シミュレーションが主流となり、従来のSFとは一線を画した「架空戦記」というジャンルが成立し、「架空戦記ブーム」が訪れる。

1990年代には大量の架空戦記が出版された。SFとの境界ジャンルであり、これを手がけるSF作家もいたが、一般にはSFとは区別され、担い手の多くは架空戦記を専門とする作家に書かれた。ハードカバーで刊行されることは少なく、主にノベルズと呼ばれる新書判サイズでシリーズで発行されることが通例である。

主な作家と作品

代表的な架空戦記作家には谷甲州川又千秋佐藤大輔横山信義がいる。

ハードSF作家の谷甲州の『覇者の戦塵』シリーズは満州事変の直後に北満州に大油田が発見されたことから始まり(史実の大慶油田、戦後に発見されている)、技術者や中堅士官の視点からの太平洋戦争の歴史改変を描き、トラクター、量産型駆逐艦レーダーの開発など地味ながら緻密な設定が高い評価を受けている。

SF作家の川又千秋の『ラバウル烈風空戦録』は日本海軍のパイロットの視点から史実とは異なる経過をたどる太平洋戦争を描き、ストーリーが巧みで、主人公の乗る二式双発単座戦闘機や烈風(史実では未完成)などの架空兵器も魅力のあるものである。

佐藤大輔はボードシミュレーションゲームデザイナーを経て作家デビューした。根強いファンを持ち、彼らは新刊を渇望している。遅筆のためなかなか応えてくれない。主な作品には以下のシリーズがある。

戦略面に重きを置き説得力ある世界設定と諧謔に富んだ独的な登場人物の人間群像が魅力。史実とはやや異なる精神主義に陥らない合理的な日本人像が特徴である。

横山信義は軍縮条約により廃棄された八八艦隊計画が実現されたらをテーマにする『八八艦隊物語』が代表作で、『修羅の波濤』『ビッグY 戦艦大和の戦後史』など多数の架空戦記を発表している。艦隊戦を得意とし、その戦闘描写の巧みさには定評がある。

彼らは歴史軍事知識の豊富さと設定・構成の緻密さによりマニアから高い評価を受けており、荒唐無稽な超兵器が補給無視で問答無用に連合国を叩き潰すような作品はなく、ご都合主義で簡単に交戦国が入れ替わったりもしない。説得力のあるストーリー展開で少しずつ確実に歴史を改変してゆく。多かれ少なかれ戦略面に重きを置き、情報や補給の重要さもしっかり描かれている。

上記の作品とは全く着眼点が異なる作品として山田正紀の『機神兵団』がある。エイリアンから回収した技術で大日本帝国を初めとする列強各国が巨大ロボット「機神」を開発して戦うという作品。SF色の強い作品で、ストーリーの面白さから高い評価を受けて第26回星雲賞を受賞し、アニメ化もされている。

その他、主な架空戦記作家に林譲治(『兵隊元帥欧州戦記』など)、橋本純(『波動大戦』など)、青木基行(『亜欧州大戦記』など)、荒川佳夫(『デュアル・パシフィック・ウォー』など)、中里融司(『戦艦越後の生涯』など)がいる。また、戦国時代を扱った架空戦記作家には桐野作人(『覇戦 関ヶ原』など)、工藤章興(『反関ヶ原』など)がいる。

志茂田景樹と霧島那智

1990年代のブームの時期に最も多く架空戦記の作品を出したのが、志茂田景樹霧島那智である。彼らは多くの作品を出したが考証性の低さと、設定の荒唐無稽さからマニアからの受けはよくなかった。

直木賞受賞作家の志茂田景樹は当時タレントとしてのメディアへの露出が多く(『笑っていいとも』にレギュラー出演など)、派手な髪型服装とユニークな言動で人気を集めていた。ミステリー小説、伝奇小説などを手掛けていた志茂田はブームの初期から架空戦記に参入して速いペースで多数の作品を発表した。諸葛孔明三国志の人物が連合艦隊の提督に憑依する(『孔明の艦隊』[1])など突飛な設定の作品が目立ち、その最たるものが長嶋茂雄監督率いる巨人軍戦国時代へタイムスリップする志茂田の真骨頂とも言える伝説的な架空戦記『戦国の長嶋巨人軍』[2]である。マニアからの評価は低かったが、直木賞受賞作家だけに文章力や小説としての面白さは高かったという意見もある。当時タレントとしてテレビ出演が多く知らぬ者のない有名作家だった志茂田が架空戦記を多数手掛けていたことが、一般読者の注目を惹き結果的に長期に渡ったブームを下支えしていたという見方も出来る。なお、志茂田は『激烈!新・日露大戦』(1996年)を最後に架空戦記の新作を発表しておらず(2003年に『北朝鮮大崩壊!! 』を発表しており、広義ではこれも架空戦記になる)、現在は絵本児童書を中心に執筆しており、教育方面で活躍している。

霧島那智若桜木虔を主宰とする2~4人の合作のペンネームで(2006年現在は若桜木のみ)、合作の分業であることと若桜木の業界屈指の速読速筆もあり(若桜木は速読の本を出している)驚異的な出版ペースで200冊近くの架空戦記を出している。以下のような作品がある。

  • 伊賀忍者特殊部隊を率いて戦艦プリンス・オブ・ウェールズを強奪。その後、帝国忍者部隊は空母ホーネットも強奪。最後に、原爆を開発しているロスアラモスに潜入して原爆を盗み出し超大型重爆撃機B36を強奪して逃走。原爆一発をサンディエゴへ投下。ルーズベルト大統領は停戦を決意。日本は大勝利。(『不沈戦艦強奪作戦発動』[3]
  • 真珠湾攻撃で敗北して更迭されたキンメル大将は戦後死去したがその魂が開戦直前の自身に転生。奇襲攻撃を知っているキンメルは空母部隊を持って南雲機動部隊を待ち構えるが、史実以上の大敗を喫して戦艦だけでなく空母まで全滅してしまう。キンメルはショックのあまり入院。その後、日本は史実以上の快進撃を続ける。日本軍はハワイ攻略を開始し、無敵の零戦三式弾で米軍を殲滅。追い詰められた米軍は50隻もの潜水艦特攻をしかけてくる。しかし、日本の駆逐艦が撃退。日本はハワイを占領して大勝利(『大殲滅!機動部隊ハワイ大海戦』[4])。
  • 戦艦大和と空母信濃をドッキングさせた無敵の双胴戦艦空母の活躍で日本は大勝利(『戦艦空母大和の進撃』[5])。

考証性の問題などからマニアの評価は低いが、霧島那智がブームの時期に最も多くの架空戦記を量産した事実は特記すべきである。なお、霧島那智の一員であった瑞納美鳳は若い女性であり、(恐らく)唯一の女性架空戦記作家であったことから「架空戦記界のマドンナ」と呼ばれた(瑞納は2002年に脱退、現在は別ジャンルで同人誌を中心に活動している)。同じく一員だった松井永人(現在は松井計)は霧島那智を脱退後、単独で架空戦記小説(「叛逆の艦隊」など)を書いていたが、やがて貧窮してホームレスに転落。その実体験を書いた『ホームレス作家』(2001年)がヒット。現在はルポルタージュを中心に活動。

架空戦記の問題点

粗製濫造の問題

1990年代のブームの時期には架空戦記作品が粗製濫造された観は否めない。多少は歴史軍事知識はあっても小説としての文章力・構成力が不足していた作品があった(=小説として面白くない)。また、作者自身に基本的な歴史軍事知識が欠けており、物語の展開に明らかに無理があり、考証に誤りが多くその方面の知識を多少でも持つ読者を失望させる作品も少なくなかった。

明らかに小説家としての経験の少ない、または素人が書いたと思われ、多少とも歴史軍事知識があるがそれが体系だっておらず(例:太平洋戦争のおおよその流れと日本の軍艦や軍用機については知ってるが、軍組織、補給や整備、他国の軍隊や当時の国際情勢については知識が乏しい)、ピンポイントのアイディアだけで書き始めたためにストーリーに整合性がなくなり、しかも小説を書くことについては素人に近いために展開は支離滅裂な上に文章は稚拙で、およそ小説の体をなしていない作品もままあった。

他分野で経験のある作家が書いた場合は、いちおう小説の体をなした作品が出来上がるが、付け焼刃で勉強するなら良い方で、酷い場合は全く勉強せずに己のあやふやな知識だけで一気に書き上げるために、(トリビアなことではなく、書く前にちょっと事典でも引けば分るような)かなり基本的な部分で間違いだらけになり、国際政治的にも軍事的にも物理的にも絶対にありえないことが作中で平気でまかり通り、素人ならともかく多少とも知識のある人間には痛すぎておよそ読むに耐えない作品もままあった。

小説家としての技量のない素人に近い人間が書いたり、知識の乏しい作家が参入することになったのは、架空戦記が売れ筋のブームであったために出版社が作品の質よりもとにかくタイトル数を揃える必要があったからである。軍事歴史知識が豊富でなおかつ小説家としての技量を有する作家は限られており、しかも、この様な作家は得てして資料調査に凝って筆が遅いという欠点があった。しかも、当時の編集者は専門的で地味な話は売れないとして嫌い、分りやすく派手な話を求めたと言われる。編集者たちは戦艦大和と零戦が大活躍する話を求め、実際に表紙が大和か否かで売上が違ってきたと言われていた。その結果、そもそも小説になってない作品や考証性の乏しい荒唐無稽な作品が大量に出回る事態が生じたのである。

しかし、荒唐無稽とされマニアからは見向きもされなかった作品でも長期に渡り次々と出版され続け、特に志茂田と霧島の作品が最も多かった事実はブームの本質を知る上で留意すべきである。彼らの作品に一定数以上の読者があり売上が見込めたから出版され続けたのである。当時のブームの売上を支えたのがパソコン通信(1990年代の主流)やインターネットで積極的に意見を書き込むマニアではなく、軽い読み物として架空戦記を求める一般読者(社会常識以上の歴史軍事知識を持たない)であったということである。マニアが怒りのあまり本を床に叩きつけるような作品でも、一般読者はわりあいに満足して読んでいたと考えられる。

執筆ペースが卓越していた志茂田や霧島のような作家は、手軽な娯楽作品としての新作を欲する一般読者の要求に応える能力があり、当時の出版社は彼らを必要としたのである。

トンデモ架空戦記

とりわけ荒唐無稽でかつ小説としての質の低い作品は「トンデモ架空戦記」と呼ばれた。ただし、荒唐無稽な設定でもアイディアが面白く、文章と構成が優れていれば、つまり小説として面白ければ読者は十分に楽しめ、「トンデモ」なぞとは呼ばれない(そもそも厳密に言えば、架空戦記というジャンルそのものが荒唐無稽である)。

「トンデモ」とは、例えば作者が名前だけ知っていたと思われる兵器と人物そして超スペックの無敵の秘密兵器が作者の妄想のままに距離と物理法則を完璧に無視して戦い、大馬鹿なアメリカを相手に日本が大勝するような、軍事シミュレーションとは到底言えず単なる作者の夢想を具現化した作品である。もちろん、そのような作品は史実や軍事技術に関する知識は皆無に等しく(むしろ誤りだらけで読者に間違った知識を与えてしまう)、歴史改変の着眼点とアイディアは陳腐、構成は支離滅裂、文章は稚拙極まりない(作者の言語能力が貧相なために、しばしば、下品極まる表現が濫発する)。

作者が意図的に史実をモチーフにハチャメチャな作品を書いている場合は「トンデモ」とは言えず、得てしてそのような作品は小説として面白い。作者が自分はよく調べていて知識が豊富だと思い込み(せいぜい市販書に書いてある兵器のカタログデータを読んだだけであり、かつそのデータ数値の意味するところは分かってない)結構大真面目に軍事シミュレーションであるとして書いている場合、その作品は貧相な知識と特異な思想の発露となり「トンデモ架空戦記」の条件をほぼ満たすと考えられている。

シリーズの長期化と未完

執筆ペースの優れた志茂田や霧島らはシリーズものの次を読みたいという読者の要求にすぐに応えることが出来たが、一方でマニアの評価の高い緻密な考証をする作家は執筆に時間がかかり出版ペースが遅く、熱心な読者の期待を受けながらシリーズが完結しないことも少なくない。佐藤大輔の『レッドサン ブラッククロス』『侵攻作戦パシフィック・ストーム』『遥かなる星』などは未完のまま放置されており、完結したシリーズは『征途』のみである。川又千秋の『ラバウル烈風空戦録』は中途のまま出版されなくなっている。谷甲州の『覇者の戦塵』はシリーズ開始から十数年、出版社を変えつつ継続しているが、出版ペースは年1~2冊であり、果たして何年後に完結するかも分らず、また初期の作品は店頭では既に売られておらず入手がやや困難になっている。これらはおそらく壮大な構想に基づいて長編小説を執筆している最中に出版業界における架空戦記の立場の急激な弱体化が重なり、出版しても採算がとれないと出版社側から判断されてしまった(もしくは時間を割いて執筆しても市場にパイがないと作者自身が判断した)結果だと予想される。もちろん、横山信義のように高い評価を受けつつシリーズものをきちんと完結させている作家もいる。

もちろん、物語を完成させられないということは作家として歴史の考証以前の問題であることは間違いなく、その意味で前述の佐藤大輔らが受けている架空戦記マニアからの神格化にも等しい高評価は、過剰に評価されていると言わざるを得ない。

軍国主義礼賛

第二次世界大戦を舞台に日本が秘密兵器の活躍によって連合国を打ちのめしたり、アメリカと共闘しナチスドイツを倒すというような作品、また近代・近未来を舞台にしたものでは中国台湾韓国、日本やアメリカ等に対し宣戦布告し(大半は資源や領土を求める不当な帝国主義に基づいている)日本が主権国家の自由と尊厳のために戦うというような作品がしばしば見られることから、一部国内メディアまたは海外から日本の軍国主義的なナショナリズムの風潮の表れとして報道されるような場合もある。

分かれる評価

そもそも作家(そして読者)が求める結果を出すために恣意的に歴史を改ざんしてしまう、作者側の姿勢が史実を重視する一般の軍事マニアや歴史マニアに広く受け入れているとは言い難いことは、前述の荒唐無稽としか言いようがない志茂田らの量産作品が一定の評価を得ていたところからもうかがい知れる。実際、生粋の軍事マニアだと自任する人間は架空戦記に対し、「邪道」として切り捨てるか、良くても何の興味も持たないかの二者択一的な反応を示すことが多い。

結局、一時のブームは軍事に詳しくない一般読者や、ごく一部の「仮想戦記マニア」が短期間のうちに1ジャンルを消化しきったことによって起こった一種のバブルだったと思われる。ただ、このときの残滓か、未だに軍事マニア=架空戦記好きという誤解がまかり通っているのは憂慮に値する事態と言えるだろう。

現況

SFやミステリーの不振もあり、1990年代には多くの書店の新書版売り場のかなりのスペースを架空戦記が占めていた。2000年代に入る頃にはブームは縮小して出版社の多くが架空戦記から撤退したが、依然として出版は続き一つのジャンルとして定着した観がある。

2000年には、海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦「みらい」が太平洋戦争にタイムスリップするかわぐちかいじの漫画『ジパング』が発表され、ヒットしている。

架空戦記の題材

よく取り上げられる題材としては以下のようなものがある。

  1. もし日本朝鮮半島ドイツのような分断国家になっていたら?
  2. もし大日本帝国ポツダム宣言を受諾せず(あるいは失敗し)徹底抗戦していたら?
  3. もし史実より強力な兵器(優秀な戦艦航空母艦その他の艦艇、航空機戦車、さらには自動小銃対戦車ロケット弾電波探信機ヴァルター機関(ワルター機関)、核兵器等々に至るまで)の開発・量産に成功し、実戦配備がされていたら?
  4. もし史実にあった失策や失敗がなかったら?
  5. もし史実にない事件が起きていたら?
  6. もし史実に存在しない人物や組織・機関が誕生していたら?
  7. もし史実と違った作戦を行っていたら?
  8. もし史実と違った戦略戦術を採用していたら?
  9. タイムトラベルにより未来の技術や兵器、もしくはまだ現実化していない歴史に関する情報を持ち込んでいたら?
  10. 将来、どこかの国が崩壊、あるいは侵略してきたら?

題材となる時代は第二次世界大戦(主に太平洋戦争)が圧倒的に多いが、戦国時代や幕末日露戦争、冷戦期を扱う作品もある。

第三次世界大戦やアジアでの地域戦争(北朝鮮崩壊や中国の台湾侵攻など)といった近未来軍事小説(大石英司などの作品)までも架空戦記とされることもあるが、これらの作品は1990年代の架空戦記ブーム以前から広く存在しており、そもそも過去の歴史の改変(架空の出来事)を扱っているのではなく、起こりうる未来を扱っており性格が全く異なるものであるとして反対する意見も強い。

海外の架空戦記

勿論、こうした小説は海外にも存在する。特に日本の「架空戦記ブーム」に触発された大韓民国においても同様のブームが生じた。当然のことながら、敵対国として人気があるのは歴史的な経緯のある日本であり、いわゆる「反日小説」の一環として見なされることも多い(ただし、日本の太平洋戦争ものの架空戦記の著者・読者の全てが反米主義者でないのと同様に、大韓民国の架空戦記の著者・読者の全てが「反日」ではないという点には注意する必要があろう)。なお、大韓民国の架空戦記事情に関しては野平俊水大北章二の共著『韓日戦争勃発!?-韓国けったい本の世界』に詳しい解説がある。

また、詳細は不明であるがアメリカ合衆国ドイツなどの欧米においても架空戦記は出版されており、一定のファンを獲得しているようである。アメリカの架空戦記で邦訳されたものではピーター・アルバーノ著の『第七の空母』シリーズ(徳間書店より2004年8月時点で4巻まで刊行・邦訳版の1巻発売時にアメリカでは7巻まで刊行されていたとのこと)がある。

代表的な架空戦記

参考・関連文献

  • と学会『トンデモ本の世界』(洋泉社、1995年)
  • 野平俊水・大北章二『韓日戦争勃発!?-韓国けったい本の世界』(文藝春秋、2001年)
  • 野平俊水『韓国・反日小説の書き方』(亜紀書房、1996年)
  • 『トンデモ架空戦記の世界 普及版Ver.6』(神聖大ちゃん帝国、2004年・同人誌
  • 如月東 『落日の艦隊 シミュレーション戦記批判序説』KKベストブック ISBN 4-8314-9320-1
  • 如月東 『検証! バーチャル艦隊の軍事力』同文書院 ISBN 4-8103-7548-X
  • 如月東、DTM編 『バーチャル艦隊の軍事力2 徹底研究 架空戦記の”実戦”力』同文書院 ISBN 4-8103-7578-1
  • 北村賢志 『虚構戦記研究読本 戦術・作戦編』光文社 ISBN 4-7698-0932-8
  • 北村賢志 『虚構戦記研究読本 兵器・戦略編』光文社 ISBN 4-7698-0933-8

関連項目