チーム・クオリティ・バランス
チーム・クオリティ・バランス(英語: Team Quality Balance、TQB)またはトータル・クオリティ・バランス(英語: Total Quality Balance)は、イニング制による競技における順位決定に用いる指標の一つである。主に野球において、勝率が同一であるチーム間の順位決定に用いられることがある。本項では、類似の指標であるER-TQB(英語: Earned Runs Team Quality Balance)についても述べる。
概要
[編集]TQBは、得点を、攻撃イニング数を、失点を、守備イニング数をとしたとき、
と定義される。
ER-TQBは、相手の自責点による得点を、失点のうち自責点をとしたとき、
と定義される。
いずれも、値が大きい方を上位とする。なお、TQBやER-TQBにおける攻撃・守備イニング数について、サヨナラゲームやコールドゲームによって不完全なイニングが発生した場合、投球回と同様にアウト一つにつき1/3を加えることとされている[1]。
採用
[編集]国際大会
[編集]国際大会においては、国際野球連盟(IBAF)が失点率に替えて2009年より主催するIBAFワールドカップやIBAFインターコンチネンタルカップにおいて採用した[2][3]。また、IBAFの後継団体である世界野球ソフトボール連盟(WBSC)も、2024年現在においてもWBSCプレミア12や各世代のワールドカップなど主催する野球の国際大会において採用している[1]。ワールド・ベースボール・クラシックにおいては、2013年の第3回大会のみ採用されている[4]。また、ソフトボールについてもWBSC主催のワールドカップにおいて2024年より導入された[5]。
いずれの場合においても、勝率で順位を決定するリーグ戦において同率のチームが発生した場合に、直接対戦成績、同率チーム間対戦におけるTQB、同率チーム間対戦におけるER-TQBの順に適用して順位を決定する。
日本プロ野球
[編集]日本プロ野球においては、2011年よりセ・パ交流戦の順位決定に採用された[3]。2023年現在、2球団が同率である場合には勝数、直接対戦成績、TQB、ER-TQBの順に適用し、3球団以上が同率である場合は勝数、TQB、ER-TQBの順に適用して順位を決定する。国際大会の場合と異なり、同率球団間ではなく交流戦全体のTQB、ER-TQBで算出する[6]。
また、2020年から2022年の日本シリーズでは、新型コロナウイルス感染症の影響により、シリーズが続行不可能となり途中で中止となった場合に、その時点での成績で優勝チームを決定するため、TQB、ER-TQBが採用された[7][8][9]。
その他
[編集]NPB12球団ジュニアトーナメントにおいて、2019年大会から採用された[10]。
事例
[編集]国際大会
[編集]国際大会においては、1次ラウンドがグループ内1回戦総当たり方式となることが多いため、TQBによって順位を決定した事例が何度か発生している。
2013年の第3回WBC第1ラウンドB組では、チャイニーズタイペイ、オランダ、韓国が2勝1敗で並び、直接対戦成績でも判定ができなかったため、TQBで第2ラウンド進出チームを決定した。
順位 | チーム名 | 勝数 | 敗数 | 得点 | 失点 | TQB | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | チャイニーズタイペイ | - | ○8-3 | ●2-3 | ○4-1 | 2 | 1 | 14 | 7 | 0.235 |
2 | オランダ | ●3-8 | - | ○5-0 | ○4-1 | 2 | 1 | 12 | 9 | 0.000 |
3 | 韓国 | ○3-2 | ●0-5 | - | ○6-0 | 2 | 1 | 9 | 7 | -0.235 |
4 | オーストラリア | ●1-4 | ●1-4 | ●0-6 | - | 0 | 3 | 2 | 14 | - |
2019年の第2回プレミア12オープニングラウンド・グループCでは、オーストラリア、カナダ、キューバが1勝2敗で並び、直接対戦成績でも判定ができなかったため、TQBでスーパーラウンド進出チームを決定した。
順位 | チーム名 | 勝数 | 敗数 | 得点 | 失点 | TQB | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 韓国 | - | ○5-0 | ○3-1 | ○7-0 | 3 | 0 | 15 | 1 | - |
2 | オーストラリア | ●0-5 | - | ○3-1 | ●2-3 | 1 | 2 | 5 | 9 | 0.0635 |
3 | カナダ | ●1-3 | ●1-3 | - | ○3-0 | 1 | 2 | 5 | 6 | 0.0458 |
4 | キューバ | ●0-7 | ○3-2 | ●0-3 | - | 1 | 2 | 3 | 12 | -0.1024 |
日本プロ野球
[編集]日本プロ野球においては、2023年の交流戦の事例がある。4チームが11勝7敗で並んだことから、TQBを用いて優勝チームを決定した。
順位 | チーム名 | 勝数 | 敗数 | 得点 | 失点 | TQB |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | DeNA | 11 | 7 | 80 | 59 | 0.140 |
2 | ソフトバンク | 11 | 7 | 86 | 65 | 0.135 |
3 | 巨人 | 11 | 7 | 72 | 55 | 0.110 |
4 | オリックス | 11 | 7 | 66 | 56 | 0.068 |
5 | 日本ハム | 10 | 8 | 59 | 45 | - |
以下、省略 |
名称
[編集]TQBの名称について、IBAFやWBSC、WBCの大会ルールにおいては、「チーム・クオリティ・バランス(Team's Quality BalanceあるいはTeam Quality Balance)」と表記されている[1][2][4]。また、侍ジャパンのサイト上でも同様の表記がみられる[11][12]。
一方、日本での報道においては「トータル・クオリティ・バランス」と表記する例がみられる[3][13][14][15]。NPBは、交流戦については正式名称の表記はしていないものの、日本シリーズについてはTQBを「Team's Quality Balance[8]」、ジュニアトーナメントについては「Total Quality Balance[10]」と表記している。また、TQBを「得失点率[3][16][17]」「得失点差率[13][15]」「得失点率差[18][19]」などと表現することがある。
脚注
[編集]- ^ a b c “Baseball World Cups - Tournament Regulations” (PDF) (英語). World Baseball Softball Confederation (2022年8月9日). 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “IBAF OFFICIAL COMPETITIONS TECHNICAL/ORGANIZATIONAL NORMS” (PDF) (英語). International Baseball Federation. 2009年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月19日閲覧。
- ^ a b c d “交流戦順位決定に国際基準「TQB」導入へ”. スポニチアネックス. (2010年11月10日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “World Baseball Classic Tournament Rules and Regulations” (PDF) (英語). MLB Advanced Media, L.P.. 2013年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月19日閲覧。
- ^ “WBSC to use Team Quality Balance in Softball World Cups” (英語). World Baseball Softball Confederation (2024年5月13日). 2024年6月4日閲覧。
- ^ “日本生命セ・パ交流戦 開催概要”. 日本野球機構. 2023年6月19日閲覧。
- ^ “SMBC日本シリーズ2020 開催要項”. 日本野球機構. 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “SMBC日本シリーズ2021 開催要項”. 日本野球機構. 2023年6月19日閲覧。
- ^ “SMBC日本シリーズ2022 開催要項”. 日本野球機構. 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “NPB12球団ジュニアトーナメント2019 supported by 日能研 開催概要”. 日本野球機構. 2023年6月19日閲覧。
- ^ “11月17日終了時点でのTQB、ER-TQB、チーム打率について”. 野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト (2017年11月18日). 2023年6月19日閲覧。
- ^ “「第28回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」の大会形式を紹介”. 野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト (2017年8月23日). 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “なぜ広島に「1円」も入らない? 交流戦に思う疑問”. Full-Count. (2017年6月21日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ “交流戦優勝争いはDeNA、ソフトバンク、楽天の3チームに 首位DeNAは19日敗れてもVの可能性残る”. スポニチアネックス. (2023年6月19日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ a b “【DeNA】きょうVS日ハムで負けても楽天戦による「TQB」次第で可能性残す…交流戦記録室”. スポーツ報知. (2023年6月19日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ “交流戦Vのゆくえは3球団に DeNA残り1戦を勝ちか引き分けで決定も負けると… 気になる3球団のTQB”. デイリースポーツ. (2023年6月18日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ “序盤の5失点が響きオープニングラウンド3敗目 スーパーラウンド進出を逃す”. 野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト (2022年8月3日). 2023年6月19日閲覧。
- ^ “交流戦 プロ野球ファンはネット上で「TQB」の確認に大忙し 阪神応援するベイ党、鷹党はハム応援?!”. スポニチアネックス. (2023年6月18日) 2023年6月19日閲覧。
- ^ “得失点率差”. 時事ドットコム. (2023年6月18日) 2023年6月20日閲覧。