朝日新聞朝刊に「今月三十日から新紙面」「読書面 筒井康隆さん新連載」という予告が出た。(中略)連載というのは「漂流――本から本へ」と題するエッセイで、これはわが人生に大きな影響をあたえた本を、自分の成長と重ね合わせながら紹介していくという、いわば「読書による履歴書」といった企画である。(中略)毎日曜日の読書面第一頁の連載である。ご期待ください。ただ、読んだ順に紹介していくことになるので、最初はやっぱり田河水泡「のらくろ」になっちまうのよなあ。
私は気に入った本、大切な本は常に近くに置いて、折に触れて適当なページを開いて読む。
この『読書の極意と掟』もそうした書物の中の一冊になった。
(解説より)
小説は誰にでも書ける。文章が下手だからこそ迫力が出る場合もある。まるきり文章になっていないような作品であってさえ前衛的な文学になり得るし、終始そのような文章で書かれた傑作さえ存在する。ほんの少しの助言で、初めて小説を書いた人の作品が傑作になることも多い。実はこれは小生が何人かの作家希望者の文章に助言してきた体験から言えることなのだ。ならばその体験を文章にして、なかなか自分の思い通りの小説が書けない初心者や新人に助言し、時には中堅やベテランにもちょっとした示唆を与えてあげることはできないだろうか、という少し驕った考えがきっかけでこのエッセイ「創作の極意と掟」は生まれた。だからこの本は理論書ではない。小生自身がそんな小説理論を書けるような文豪でもなければ小説の名人でもないのだから、あくまでエッセイなのである。
その自分のことを棚にあげて言うならば、例えばプロのベテラン作家の作品を読んでいてさえ、あっ、ここは間違えているなと思うことが多い。これはつまり校正担当者が直しにくい間違い、つまり思い違いだとか、誤った思い込みとか、誤った引用のしかたをしているとかいったことであり、こういう人は誰も注意する人がいなかった場合にしばしば別の作品でも同じ間違いをしているものだ。今までなら「またやってるな」と思って笑ってすませていたのだが、歳をとってきて誰かの面倒を見たい欲求が増すと、これはちょっとまずいのではないか、誰か教えてやった方がいいのではないかと思いはじめたのだ。小生自身の作品にだって間違いはたくさんあるのだし、だからこそそれを教えられた時のありがたさはよく知っている。この本にはほぼ六十年小説を書き続けてきた自身のそのような経験も含め、小説を書こうとする人に遺そうとするちょっとした知恵が収められている。
つづきを読むこの本はこれから小説を書こうとする者に白紙に立ち向かう勇気と実際的な助言を与えてくれます。私は仕事用の机の前に座った状態で手を伸ばして届くところにこの本を置いておこうと思っています。
守り本尊って感じで。守り本尊って感じで。
筒井康隆その人の小説観が浮き彫りになってくる一冊!
筆者が伝えようとしていることは、小説の書き方よりも、よっぽど作家が切実に知りたいことだ。