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JP3857156B2 - 電子源用ペースト、電子源およびこの電子源を用いた自発光パネル型表示装置 - Google Patents

電子源用ペースト、電子源およびこの電子源を用いた自発光パネル型表示装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界の印加で電子を放出する電子源を形成するための電子源用ペーストとこの電子源用ペーストを用いて形成した電子源およびこの電子源を陰極配線に形成した自発光パネル型表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電界放射型のパネル表示装置(FED)の一形式として、電界の印加で電子を放出する電子源としてカーボンナノチューブやカーボンナノファイバー等の無機質炭素材料を用い、これを電子源とした自発光パネル型表示装置が数多く報告されている。例えば、公称4.5インチの自発光パネル型表示装置を作製した例が、SID99Digestのpp.1134−1137に記載されている。この種の電子源は、例えばカーボンナノチューブ(CNT)と銀(Ag)粒子を混練した電子源用ペースト(銀ペーストにカーボンナノチューブを混練したもの)を陰極配線等の導電膜に塗布または印刷し、これを大気中で加熱(焼成)して固定化している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような銀を混練したカーボンナノチューブやカーボンナノファイバー等の無機質炭素材料ペーストは、大気中で400°C以上に加熱すると、銀の触媒作用で無機質炭素材料(以下、カーボンナノチューブ等とも称する)が酸化し、CO2 (またはCO)となって大部分が消失してしまい、表示装置の電子源に用いた場合に充分な電子放出特性が得られなかったり、均一な電子放出の電子源を構成することが困難であった。また、銀に限らずニッケル(Ni)等の他の金属を含むペーストでも、この傾向は程度の差はあっても同様である。
【0004】
このため、カーボンナノチューブ等と金属を含む電子源用ペーストで形成した電子源では、当該ペーストの塗布膜、印刷膜の焼成などの表示装置の製作上で必要な加熱温度を、そのプロセスで一般的に必要とされる最適温度より低温で行うか、非酸化雰囲気中で行う必要があった。しかし、非酸化雰囲気(真空、窒素ガス、アルゴンガス等)の雰囲気中での加熱は、加熱装置を含むプロセス設備の制約からパネル表示装置の大型化には対応し難い。また、非酸化雰囲気中での電子源用ペーストの焼成においても、酸化性ガスの残留やプロセス設備からの発ガスのためカーボンナノチューブ等が部分的に消失し、電子源の電子放出性能が劣化し、また電子放出が不均一となる要因の一つとなっている。
【0005】
カーボンナノチューブ等と銀を混練した電子源用ペースト(CNT−Agペースト)を用いた電子源の形成技術を開示した文献として、J.M.Kim etal.,New Emitter Techniques for Field Emission Displays(SID 01 DIGEST pp.304−307)がある。この文献では、上記の電子源用ペーストをスクリーン印刷し、大気中で350°Cで焼成した電子源を形成し、電子源を形成した基板と蛍光体と陽極を形成した対向基板をアルゴンガス中で415°Cで加熱し封着している。
【0006】
上記の焼成温度350°CはCNT−Agペーストの有機バインダ成分を分解する下限であり、また大気中で400°C以上の加熱を行うことができないことで350°Cの焼成温度としているが、より高い温度での焼成が望まれる。また、基板の封着温度は415°C程度が下限であるため、アルゴンガス等の非酸化雰囲気で封着を行っている。
【0007】
しかし、CNT−Agペーストで形成する電子源の膜内の導電性やその膜強度を充分に確保するためには、500°C以上での焼成が望まれる。さらに、アルゴンガス等の非酸化雰囲気中での加熱も、カーボンナノチューブ等の酸化を完全に防ぐことができず、電子放出が不均一となる一つの原因となっている。
【0008】
本発明の一つの目的は、400°C以上で焼成でもカーボンナノチューブ等の消失を低減した電子源用ペーストを提供することにある。また本発明の他の目的はこの電子源用ペーストで形成した電子源を提供することにある。そして本発明のさらに他の目的はこの電子源用ペーストで形成した電子源を有する自発光パネル型表示装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、カーボンナノチューブ等と金属のペーストに硼素(B)を添加した。硼素の添加により、カーボンナノチューブ等の酸化を抑制し、焼成等の加熱プロセスにおいて電子放出特性の劣化と電子放出性能の劣化を防止した。
【0010】
添加する硼素は還元性の高い硼素単体、硼素の合金、酸化硼素で良い。硼素単体、硼素の合金などは自身が優先的に酸化してカーボンナノチューブ等の酸化を実効的に抑制し、酸化硼素は例えばカーボンナノチューブのダングリングボンド(表面欠陥端)を覆って保護層として酸化を防止する。なお、酸化硼素による炭素材料の耐酸化性向上に関しては、特許第2749175号および「Chemistry and Physics of Carbon,23巻」に記載されている。
【0011】
さらに、酸化硼素は450°Cで溶融するため、カーボンナノチューブ等を金属粒子に固着させる効果も得られる。このため、カーボンナノチューブ等を含む電子源用ペーストの塗布焼成で形成した電子源の膜からカーボンナノチューブ等が脱落し、この電子源を用いたパネル型表示装置の動作中の放電を惹起する原因となることを防ぐこともできる。このように、カーボンナノチューブ等に耐熱処理を施さない場合、表示装置の製作プロセスでの熱処理工程でカーボンナノチューブ等が燃焼し、あるいはダメージを受けるために、カーボンナノチューブ等の電子放出特性が大幅に劣化するという問題があった。以下、本発明の代表的な構成を列挙する。
【0012】
(1)、電子源用ペーストに金属またはその合金、無機質炭素材料、硼素(B)を少なくとも含む。このとき、前記硼素を、硼素単体、硼素と他金属との固溶体、硼素と他金属との金属間化合物、あるいは硼素を含む化合物の少なくとも何れか一つの形態または複数の形態として含ませる。
【0013】
(2)、また、前記硼素を、酸化硼素、硼酸、硼素のアルコキシドの少なくとも何れか一つの形態または複数の形態として含ませる。または、前記硼素を、硼素単体、硼素と他金属との固溶体、硼素と他金属との金属間化合物、あるいは硼素を含む化合物の少なくとも何れか一つの形態または複数の形態、および酸化硼素、硼酸、硼素のアルコキシドの少なくとも何れか一つの形態または複数の形態の両方として含ませる。
【0014】
(3)、前記金属間化合物を、AgB2 ,Ni3 B,Ni2 Bの何れか一つまたは複数とする。または、前記硼素を含む化合物がNaBH4 とする。
【0015】
(4)、前記硼素の含有量を、金属または合金に対する元素比率として概略0.07乃至30、好ましくは0.1乃至15、さらに好ましくは0.4乃至15とする。前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金の総量を、当該電子源用ペースト中に含まれる有機成分ならびに無機質炭素材料を除いた残りのうちの概略50体積%以上とする。
【0016】
(6)、前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金の総量を、当該電子源用ペースト中に含まれる有機成分ならびに無機質炭素材料を除いた残りのうちの概略50体積%以上とする。また、前記電子源用ペースト中に含まれる前記無機質炭素材料の総量を、当該電子源用ペーストに含まれる前記金属または合金の総量に対する元素比率として概略0.1乃至9とする。
【0017】
(7)、前記電子源用ペースト中に含まれる前記無機質炭素成分を、カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバーを少なくとも含むものにする。また、前記カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバーの含有量を、前記電子源用ペーストに含まれる前記無機炭素成分の総量に対する重量%として概略1%以上、好ましくは10%以上とする。
【0018】
(8)、前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金として、銀(Ag),ニッケル(Ni),金(Au),アルミニウム(Al),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),鉛(Pd),タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta),チタン(Ti),クロム(Cr),イリジウム(Ir)のうちの少なくとも一つあるいは複数を含ませる。
【0019】
(9)、前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金を、AgまたはNi、あるいはその両方を主成分とするものを用いる。
【0020】
(10)、前記電子源用ペーストを塗布または印刷し、概略400°C以上、好ましくは概略450°C以上の温度にて加熱することにより固定化して電子源とする。
【0021】
(11)、陰極配線と制御電極および蛍光体を有する陽極を持ち、前記陰極配線に前記の電子源を具備させた自発光パネル型表示装置とした。
【0022】
上記の電子源用ペーストとして、例えばカーボンナノチューブと銀のペースト(CNT−Agペースト)硼素を添加することにより、カーボンナノチューブの酸化消失を抑制できる。還元性の強い硼素は、自身が優先的に酸化してカーボンナノチューブの酸化を抑制する。酸化硼素はカーボンナノチューブのダングリングボンドを覆って酸化を抑制する。これにより、大気中で400°C以上の加熱プロセスを通してもカーボンナノチューブは消失せず、充分な電子放出特性が得られる。
【0023】
さらに、非酸化性雰囲気中での加熱と併用すれば、酸化性ガスの残留や発ガスの許容範囲が大きいため、局所的なカーボンナノチューブの酸化も防ぐことができ、特に電子放出の均一性の改善が可能となる。
【0024】
また、酸化硼素は450°Cにて溶解し、カーボンナノチューブを金属粒子に固着する役目を果たすため、形成した電子源の膜からのカーボンナノチューブの脱落が防止され、放電発生が回避される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、実施例の図面を参照して詳細に説明する。以下では、カーボンナノチューブを無機質炭素材料の例として説明する。銀ペーストにカーボンナノチューブを混練したものを基板に塗布し、これを加熱(焼成)して固定化して電界放射型のパネル表示装置(FED)の電子源とする際に、平均粒径が1乃至3μmの銀粒子とカーボンナノチューブ(グラファイト並びに無定形カーボン等を含む)をセルロース系バインダ、分散剤、添加剤などと混練して電子源用ペーストを作成した。
【0026】
このとき、無機質炭素成分(C:カーボンナノチューブ、グラファイト、無定形カーボン等)量の銀に対する元素比(C/Ag)として1.8(C/Ag、重量比0.2)に調整してAg−CNTペーストを作製した。この場合のカーボンナノチューブの材料としては、希ガス中のアーク放電法にて製造したマルチウォールCNTを用いた。
【0027】
図1はAg−CNTペーストの加熱条件による電子放出特性の変化と硼素添加による同様の電子放出特性の変化をプロットしたグラフで示す電流密度の電界依存性の説明図で、横軸は電界強度(V/μm)、縦軸は電流密度(mA/cm2 )である。図中、白三角のグラフはAg−CNTペーストを大気中350°Cで焼成した場合、白丸のグラフはAg−CNTペーストを大気中450°Cで焼成した場合、白四角のグラフはAg−CNTペーストを大気中590°Cで焼成した場合、黒四角のグラフはAg−CNTペーストを窒素雰囲気中590°Cで焼成した場合、白星のグラフはAg−B−CNTペーストを大気中590°Cで焼成した場合を示す。
【0028】
このグラフを得るため、Ag−CNTペーストをガラス基板の表面に3mm角の領域で厚膜印刷し、大気中にて350°C、450°C、590°Cでそれぞれ30分間焼成して焼成膜としたサンプルを作製した。このサンプルの焼成膜の前方に400μmの距離をおいて陽極を配置し、電子放出特性を測定した。
【0029】
白三角、白丸、白四角の各グラフに示されたように、焼成温度が高い程、電子放出に必要な電界は高くなり(電子が放出し難くなり)、590°Cの焼成では8V/μmの高電界でも電子放出は得られなかった。しかし、同じペーストを窒素雰囲気中590°Cで焼成したものでは、約4V/μmの電界強度で略20mA/cm2 の電子放出が得られた。
【0030】
高温の大気中での加熱で充分なまたは全く電子放出が得られなくなる理由は、酸化性雰囲気での加熱でカーボンナノチューブ等の炭素は酸化されて炭酸ガスとなって焼失したためと考えられる。ただし、使用したカーボンナノチューブだけを600°Cで加熱しても、ほとんど焼失しなかった。これは、銀が酸化触媒の働きをし、カーボンナノチューブの酸化を促進しているためである。したがって、カーボンナノチューブのペースト中にAg(あるいは、他の酸化触媒作用をもつ金属)を含まなければ、400°C以上の大気中加熱にもカーボンナノチューブは耐えられる。
【0031】
しかし、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた電子源の導電性確保ならびに電子源の膜強度確保の観点から、カーボンナノチューブのペースト中にAg(Ag粒子、あるいは他の金属粒子)が含まれていることが望ましい。また、酸化触媒として働く金属を含むカーボンナノチューブのペーストにおいても、窒素雰囲気中(あるいは他の非酸化性雰囲気中)での加熱であれば、カーボンナノチューブの酸化を抑制することができるが、公称対角40インチクラスの大型基板の製造プロセスに対して上記のような非酸化性雰囲気中での焼成処理を実現することは不向きである。
【0032】
Ag等の酸化触媒作用をもつ金属がカーボンナノチューブの酸化(焼失)を促進することは、炭素質材料全てに共通であり、マルチウォールCNTならびにシングルウォールCNT、黒鉛、ダイヤモンドライクカーボン、無定型カーボンなどでも同様の酸化促進現象が見られる。炭素の酸化を防ぐ手法としては、炭素表面のダングリングボンドをB−O(硼素−酸素)にて覆うことが特開平3−271184号公報、Chemistry and Physics of Carbon,23巻第3章 208頁に示されている。
【0033】
以上の事実を踏まえた本発明の実施例を説明する。
【0034】
[実施例1]
Ag−CNTペーストに硼素BをB/Ag元素比として0.8(B/Ag重量比0.08)になるように添加してAg−B−CNTペーストを作成した。硼素添加材料としては硼素単体を用いた。このAg−B−CNTペーストを大気中にて590°Cで加熱(焼成)を行ったところ、図1の白星のグラフに示したように、電界強度が約3V/μmで20mA/cm2 の電子放出が得られた。このように硼素を添加した場合には、大気中590°Cの加熱においても電子放出が可能なだけでなく、ホウ素を添加しないAg−CNTペーストの窒素雰囲気中での加熱の場合よりさらに良好な電子放出特性が得られた。
【0035】
図2はAg−CNTペーストとAg−B−CNTペーストをそれぞれ大気中590°Cで焼成した電子源の膜の走査電子顕微鏡写真であり、同図(a)はAg−CNTペーストの焼成膜、同図(b)はAg−B−CNTペーストの焼成膜である。図2(a)にはカーボンナノチューブは消失して銀粒子のみが残留している。同図(a)中に繭状に示されているものが銀(Ag)粒子である。これに対し、図2(b)には酸化されずに残ったカーボンナノチューブCNTが銀粒子の間に存在している。同図(b)中にファイバ状のカーボンナノチューブCNTが見える。なお、同図(b)中で繭状の銀(Ag)粒子の間を繋ぐように酸化硼素(B2 3 )が存在しているのが示されている。
【0036】
なお、本実施例と同様の実験を、熱CVD法により作製したシングルウォールCNT並びにマルチウォールCNTを用いたAg−CNTについても行ったが、硼素添加により酸化焼失が抑制され、大気中加熱においても良好な電子放出特性が得られることを確認した。
【0037】
[実施例2]
図3はAg−B−CNTペーストの電子放出必要電界の硼素量依存性の説明図である。図3はAg−B−CNTペーストにおいて、硼素BをB/Ag元素比として0.05乃至50(B/Ag重量比0.005乃至5)の範囲で変化させたペーストを作成した。硼素添加原料として、硼素単体と酸化硼素(B2 3 )の場合を示した。この電子源用ペーストの印刷膜を大気中590°Cにて加熱(焼成)した後、その20mA/cm2 の電子放出が得られる電界を測定した結果を示す。
【0038】
硼素単体を添加した場合、B/Ag元素比0.07乃至30の範囲では8V/μmの電界以下で電子放出が得られ、この範囲外では10V/μmにおいても電子放出が観察されなかった。硼素が少ない場合、その耐酸化保護効果は不十分であり、逆に硼素が過多になると硼素が膜表面を過度に覆うため電子放出特性は低下する。硼素添加原料として酸化硼素を用いた場合、B/Ag元素比0.35乃至30の範囲で電子放出が得られた。これらの結果から、少なくともこれらの組成範囲(B/Ag元素比)では硼素添加の効果があることが分かった。
【0039】
ところで、電界放射型のパネル表示装置(FED)では、その電子源より電子を引き出す駆動電圧は低いほど良いが、少なくとも150V程度以下であることが望まれる。この駆動電圧であれば既存の駆動ドライバ回路が安価に入手可能である。ここで、印刷により形成したカーボンナノチューブの電子源を用いる場合、電子を引き出すためのゲート電極までの距離は25μm程度となる(これ以下には精度良く形成あるいは配置することが難しい)。
【0040】
従って、駆動電圧を150V以下にするには、6V/μm(=150V/25μm)以下の電界で必要な電流密度が得られることが必要である。必要な電流密度は、発光輝度の観点から蛍光面電流密度として5〜10mA/cm2 が必要である。ただし、ゲート電極構造を作り込む必要から実効的な電子源面積は電子源を形成する基板の半分以下に制限される。このため、電子源での電流密度は10乃至20mA/cm2 が必要となる。従って、カーボンナノチューブを用いた電子源の特性としては6V/μm以下の電界で20mA/cm2 程度の電流密度が得られることが望ましい。この特性が得られる組成範囲はB/Ag元素比で、硼素単体添加の場合は概略0.1乃至15、酸化硼素添加の場合は概略0.4乃至15であった。
【0041】
硼素単体の方が酸化硼素より低濃度においてもカーボンナノチューブの酸化防止の効果があるのは、ホウ素単体はそれ自身が炭素より優先的に酸化しカーボンナノチューブの酸化を抑制し、さらに酸化硼素となってカーボンナノチューブの表面に吸着し保護層となるという二重の保護効果を有するためである。
【0042】
しかしながら、硼素(単体)は容易に酸化し吸湿性があるため、当該ペースト中に硼素単体として添加した場合でも厳密には酸化硼素(あるいは硼酸)が幾分か含まれる可能性が高く、硼素添加効果にバラツキが生じる。このため、確実にFED用電子源の用途として硼素添加の効果を再現性良く得るためには、硼素単体を添加する場合においても、酸化硼素での組成範囲であるB/Ag元素比で0.4乃至15に調整することが望ましい。
【0043】
尚、硼素添加材料として、銀との金属間化合物、水素化硼素ナトリウム(NaBH4 )、硼酸(H3 BO3 )、B(OCH3 3 等のアルコキシドを用いた場合は、硼素単体及び酸化硼素と同等か、それらの中間的な電子放出特性となる。金属間化合物や水素化硼素ナトリウムは硼素単体と同様、まず硼素自身が酸化することによりカーボンナノチューブの酸化を抑制し、酸化硼素となってからカーボンナノチューブの保護層を形成する。硼酸やアルコキシドは加熱により分解され酸化硼素となり、酸化硼素で添加した場合と同様の働きをする。
【0044】
図4はAg−B−CNTペーストの大気中590°×2回焼成後の電子源膜(Ag−B−CNT膜)表面の走査電子顕微鏡写真である。一度酸化硼素で保護されたカーボンナノチューブ(CNT)は、その後の再度の大気加熱に対しても保護効果を持つ。再度590°Cで大気中加熱を行った図4のAg−B−CNT膜の走査電子顕微鏡写真において、カーボンナノチューブは同図中にファイバ様に明確に観察された。また、電子放出特性の劣化も観察されなかった。このことは印刷ペーストの焼成工程だけでなく、その後のFEDパネル製造の熱プロセスにおいても耐性があることを示している。パネル製造における歩留まりや、製品信頼性の大幅な向上が見込める。
【0045】
[実施例3]
図5はNi−CNTとNi−B−CNTの大気中590°C加熱後の表面を比較するための走査電子顕微鏡写真であり、同図(a)はNi−CNTの焼成膜、(b)はNi−B−CNTの焼成膜である。実施例1と同様の方法によりNi−B−CNTペーストを作成した。ニッケル(Ni)は平均粒径が約1μmのものを用い、C/Ni元素比1.2(重量比0.25)、B/Ni元素比0.45(重量比0.09)に調整した。このNi−B−CNTペーストと硼素を含まないNi−CNTペーストを大気中にて590°Cで加熱(焼成)した。その結果、図5(b)に示されたようにカーボンナノチューブ(CNT)がファイバ様に残留していることが確認され、銀粒子を用いたペーストと同様にニッケルにおいても、硼素の添加によりカーボンナノチューブの酸化を防止できた。
【0046】
一般に、金属ならびにその酸化物は酸化触媒として働くことが多く、他金属とカーボンナノチューブ(または、他の無機質炭素成分)とを混合したペーストにおいて、硼素は同様な効果を示す。金(Au),アルミニウム(Al),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),鉛(Pd),タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta),チタン(Ti),クロム(Cr),イリジウム(Ir)において検討した結果では、銀及びニッケルとほぼ同様の効果を確認した。またこれら金属が複数混ざったものでも同様の効果が得られることは明らかである。
【0047】
図6は本発明による電界放射型表示装置の構成例を説明する要部展開斜視図である。図中、参照符号1は電子源側基板、2は電子源配線(陰極配線)、3はAg−B−CNTの電子源、4は金属グリッド(制御電極)、5は金属グリッド電極の開口部(電子通過孔)、6は内面に陽極と蛍光体を備えた蛍光面側基板である。本実施例では、実施例1のAg−B−CNTペーストを用いた。まず、電子源側基板1に銀ペーストの印刷と焼成で電子源配線2を形成する。その上面に電子源であるAg−B−CNTペーストを印刷した。これを大気中590°Cにて焼成して電子源とした後、開口部5を持つ金属グリッド電極4を重ねて配置した。
【0048】
電子源側基板1の内面へのグリッド電極5の固定にガラスフリット(図示せず)を用い、このガラスフリットによる金属グリッド電極4の固着のため、大気中450°Cの加熱を行った。金属グリッド電極4の開口部5の下端とAg−B−CNT表面の距離は約25μmとした。
【0049】
また、図7は電子源側基板と蛍光面側基板を所定の距離に保持する保持構造の一例を説明する概略斜視図である。上記の電子源配線2、電子源3および金属グリッド電極4を形成した電子源側基板1と蛍光面側基板6の間に隔壁(またはスペーサ)7を介在させ、両基板の周辺を枠ガラス(図示せず)ならびにガラスフリット(図示せず)にて封着した。この封着は大気中430°Cで行った。その後、350°Cで加熱しつつ両基板の間の排気を行い、真空に封止した。
【0050】
図8は本発明による表示装置の駆動方式の一例を説明する等価回路である。この表示装置は、y方向に延在するn本の電子源配線(陰極配線)2がx方向に並設されている。また、x方向に延在するm本の制御電極(金属グリッド)4がy方向に並設され、陰極配線2と共にm行×n列のマトリクスを構成している。
【0051】
この表示装置を構成する電子源側基板の周辺には走査回路60と映像信号回路50が配置されている。制御電極4のそれぞれは走査回路60に制御電極端子40(Y1,Y2,・・・・Ym)で接続されている。そして、陰極配線2のそれぞれには映像信号回路50に陰極端子20(X1,X2,・・・・Xn)で接続されている。
【0052】
マトリクス配列された陰極配線2と制御電極5の交差部の画素毎に前記の実施例で説明した硼素を含有したカーボンナノチューブペーストの塗布焼成で形成したいずれかの電子源が設けられている。なお、前記の実施例では、この電子源は各交差部の1画素あたり1個として説明したが、これに限るものではなく、2個以上を1画素領域に配列することができる。図中のR,G,Bはそれぞれカラーの一画素を形成する赤(R)、緑(G)、青(B)の単色画素であり、それぞれの色に対応した光を蛍光体から放出する。
【0053】
走査回路60と映像信号回路50には、図示しないホストコンピュータから表示のための各種信号が印加される。走査回路60には同期信号61が入力される。走査回路60は制御電極端子40を介して制御電極4のマトリクスの行を選択して走査信号電圧を印加する。
【0054】
一方、映像信号回路50には映像信号51が入力される。映像信号回路50は陰極端子20(X1,X2,・・・・Xn)を介して陰極配線2に接続され、マトリクスの列を選択して選択された陰極配線に映像信号51に応じた電圧を印加する。これにより、制御電極5と陰極配線2とで順次選択された所定の画素が所定の色光で発光し、2次元の映像を表示する。
【0055】
本実施例によるカーボンナノチューブ4を電子源とした表示装置により、比較的低電圧で高効率、かつ表示ムラのない明るいFED表示装置が実現される。
【0056】
以上のように、本実施例のAg−B−CNTペーストでは十分に高い温度(590°C)にて大気中焼成が可能であるため、Ag−B−CNTからなる電子源3は十分な強度かつ十分な導電性を有する。また、その後の熱プロセスを通ってもカーボンナノチューブが酸化(焼失)することがないため十分な電子放出が得られた。このFED表示装置において、蛍光面側基板6の内面に有する陽極に7kVを印加し、グリッド電圧100V(60Hz駆動)で動作させたところ、この種の表示装置として十分な500cd/m2 の輝度が得られた。
【0057】
これに対し、従来のAg−CNTペーストを用いて上記と同様の製造プロセスにて表示装置を作成したところほとんど発光しなかった。Ag−CNTペーストに関してはカーボンナノチューブの酸化を抑えるため、当該ペーストの焼成温度を350°Cとした場合も試みた。この場合でも他の熱プロセスである450°Cを通るため電子源膜に劣化が生じ、同一駆動条件にて輝度はAg−B−CNTを用いた場合の約半分しか得られなかった。さらには、すべてのFED製造における熱プロセスを窒素置換可能な装置中にて行ってみたが、Ag−B−CNTペーストを用いて大気中熱プロセスを通した場合より輝度は明らかに低くなった。このことはFEDを組み立てる熱プロセスにおいては、各構成材料や製造治具等からの発ガスが避けられず、完全な非酸化性雰囲気を維持することが困難であることを示唆している。
【0058】
ところで、電子源にAg−B−CNTペーストを用いた場合においては、焼成ならびにその後の熱プロセスを窒素中で行ったところ発光均一性がさらに向上する現象が現れた。硼素によるカーボンナノチューブ保護効果と非酸化性雰囲気による保護効果が重畳したため、カーボンナノチューブのマクロな酸化、焼失だけでなく、ミクロ的なカーボンナノチューブ表面の局部的酸化も抑制されたためと考えることができる。
【0059】
このように電子源に本実施例のAg−B−CNTペーストを用いた場合、大気中での加熱プロセスにおいても十分な性能のFEDを製造できるため、低コストかつ高品質な表示装置を提供できる。さらに、窒素等の非酸化性雰囲気中での加熱プロセスと併用すればさらに発光均一性を向上できる。このため高精細・高表示品質なディスプレイを実現することが可能となる。
【0060】
ところで、ホウ素を添加しない場合の代替案として考えられる完全な非酸化性雰囲気での熱プロセスを実行することは、構成部材からの発ガスのため非常に困難である。従って、カーボンナノチューブを用いた電子源に硼素を添加することはカーボンナノチューブを電子源としたFED技術にとって必須といって良く、本発明は電子源用の硼素を添加したペーストのみならず、これを用いて製造した電子源、およびこの電子源を備えた表示装置を含むものである。
【0061】
さらに、副次的ではあるが、本発明により、FED表示装置の内部放電が防止される効果が得られた。これは酸化硼素が450°C程度で溶融するため、これがカーボンナノチューブと金属粒子とを固着させるためと思われる。これにより、放電によるパネル破損が抑制され、FED表示装置の信頼性を向上させることができた。
【0062】
尚、本発明の実施例においては電子放射材料としてカーボンナノチューブCNT(マルチウォールCNTならびにシングルウォールCNT、広義にはカーボンナノファイバー)を用いて説明したが、電子放射材料としては無機質炭素材料であれば同様の効果がある。カーボンナノチューブ以外の無機質炭素材料としては、例えばダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、黒鉛、無定型カーボンを用いることができるし、これらの混合物でもかまわない。ただし、カーボンナノチューブは炭素材料のなかでも優れた電子放射材料であり、無機質炭素成分の内1%、好ましくは10%以上含まれることが望ましい。
【0063】
また、金属ペーストは、金属のほかガラス等の無機質バインダを含むことが多い。ただし、この場合には十分な導電性を発現させるため、一般的には金属・無機質バインダ体積の半分以上は金属となるよう調整してある。本発明においても金属成分が無機質バインダ成分より多いことが望ましいのは同様である。
【0064】
さらに、本発明の実施例中の硼素の添加においては、金属とカーボンナノチューブの混合ペースト作成の後に硼素を添加する手順を用いたが、予めカーボンナノチューブや無機質炭素成分と硼素を混合処理した後に金属成分を加えても良く、あるいは同時に混合しても良いことは言うまでもない。
【0065】
また、本発明は上記の実施例の構成に限定されるものではなく、適用対象もFEDに限らず、本発明の技術思想の範囲内で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、カーボンナノチューブを混練したペーストの耐熱性を向上させることができる。特に、FEDの製造プロセスにおける電子源焼成工程や基板封着工程を非酸化性雰囲気にする必要がなく、一般的な加熱炉(あるいは焼成炉)を用いることが可能となり、製造コストの低減に資する。また、非酸化性雰囲気での加熱あるいは焼成を併用することで電子放出の均一性をより一層向上でき、さらに高品質の表示装置を提供できる。また、FEDは蛍光面に高電圧を印加するため、カーボンナノチューブが所定の位置以外に飛散して付着しているような場合には、これが放電の原因となって表示装置にダメージが生じる可能性もあるが、本発明の電子源はカーボンナノチューブの飛散がないため、このような危惧を格段に低減でき、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ag−CNTペーストの加熱条件による電子放出特性の変化と硼素添加による同様の電子放出特性の変化をプロットしたグラフで示す電流密度の電界依存性の説明図である。
【図2】Ag−CNTペーストとAg−B−CNTペーストをそれぞれ大気中590°Cで焼成した電子源の膜の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】Ag−B−CNTペーストの電子放出必要電界の硼素量依存性の説明図である。
【図4】Ag−B−CNTペーストの大気中590°×2回焼成後の電子源膜(Ag−B−CNT膜)表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】Ni−CNTとNi−B−CNTの大気中590°C加熱後の表面を比較するための走査電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明による電界放射型表示装置の構成例を説明する要部展開斜視図である。
【図7】電子源側基板と蛍光面側基板を所定の距離に保持する保持構造の一例を説明する概略斜視図である。
【図8】本発明による表示装置の駆動方式の一例を説明する等価回路である。
【符号の説明】
1 電子源側基板
2 電子源配線(陰極配線)
3 Ag−B−CNTの電子源
4 金属グリッド(制御電極)
5 金属グリッド電極の開口部(電子通過孔)
6 内面に陽極と蛍光体を備えた蛍光面側基板。

Claims (11)

  1. 金属成分を主成分とする電子源用ペーストであって、
    金属またはその合金、無機質炭素材料、硼素(B)を含み、前記硼素が、硼素単体、硼素と他金属との固溶体、硼素と他金属との金属間化合物、硼素を含む化合物であるNaBH 4 、の少なくとも何れか一つの形態または複数の形態として含まれることを特徴とする電子源用ペースト。
  2. 前記金属間化合物が硼化銀(AgB2 ),硼化ニッケル(Ni3 B,Ni2 B)の何れか一つまたは複数であることを特徴とする請求項1に記載の電子源用ペースト。
  3. 前記硼素の含有量が、金属または合金に対する元素比率として0.07乃至30であることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の電子源用ペースト。
  4. 前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金の総量が、当該電子源用ペースト中に含まれる有機成分ならびに無機質炭素材料を除いた残りのうちの概略50体積%以上であることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の電子源用ペースト。
  5. 前記電子源用ペースト中に含まれる前記無機質炭素材料の総量が、当該電子源用ペーストに含まれる前記金属または合金の総量に対する元素比率として概略0.1乃至9であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の電子源用ペースト。
  6. 前記電子源用ペースト中に含まれる前記無機質炭素成分が、カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバーを少なくとも含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の電子源用ペースト。
  7. 前記カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバーの含有量が、前記電子源用ペーストに含まれる前記無機炭素成分の総量に対する重量%として1%以上であることを特徴とする請求項に記載の電子源用ペースト。
  8. 前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金がAg,Ni,Au,Al,Fe,Cu,Zn,Pd,W,Mo,Ta,Ti,Cr,Irのうちの少なくとも一つあるいは複数を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の電子源用ペースト。
  9. 前記電子源用ペースト中に含まれる前記金属または合金がAgまたはNi、あるいはその両方を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の電子源用ペースト。
  10. 前記請求項1乃至の何れかに記載の電子源用ペーストを塗布または印刷し、400°C以上の温度にて加熱することにより固定化したことを特徴とする電子源。
  11. 陰極配線と制御電極および蛍光体を有する陽極を持ち、前記陰極配線に前記請求項10に記載の電子源を具備した自発光パネル型表示装置。
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