イラストはデジタル・グラフィックスセンター・髙木杏珠

 ある匂いを嗅ぐと昔の記憶が不意によみがえることがある。県外に住む新潟県出身者や新潟に住んだことのある人は、匂いでふと新潟を思い出すことがあると言う。匂いからなぜ記憶がよみがえるのか。県外在住者に匂いの思い出を聞いて回るとともに、匂いの不思議を探った。

 また、いい匂いには気分がすっきりしたり、気持ちを落ち着けたりする効果もある。暮らしの中での香りの取り入れ方を教えてくれる店を訪ねたほか、複雑な匂いの可視化を実現させた企業を紹介する。

蚊取り線香に田んぼ、あの“ソウルフード”もきっかけに

郷愁誘う「思い出の匂い」

 新潟県出身者やゆかりのある県外在住者は、どんな匂いで新潟を思い出すのだろうか。

 津南町出身の女性(79)は、上京して60年以上たつが、蚊取り線香の匂いを嗅ぐと、津南町にいた時の母を思い出す。「子どもの頃、雷が鳴ると、母が雷よけだと言って線香をたいてくれた。でも香りのいい今のお線香ではなく、昔ながらの蚊取り線香で思い出す」という。

 新潟市中央区出身で都内在住の女性(81)も、夫の実家がある千葉県君津市に行くと、子どもの頃の母の思い出がよみがえるという。「田舎なので、敷地で稲わらや草などを燃やす匂いがどこからかしてくる。その匂いを嗅ぐと、母が台所でかまどや七輪を使って料理していた姿を思い出す」と懐かしそうに語った。

 都市部で暮らす中、匂いから新潟の豊かな自然を思い出す人もいる。

 「荒川で釣りをしていると、刈ったばかりの草の匂いがすることがある。それを感じた時、田んぼに囲まれた魚沼市の母の実家を思い出す」。こう話すのは、東京で飲食店を経営する男性(48)だ。子どもの時は毎年夏休みになると、祖父母の暮らす魚沼市を訪れた。緑あふれる自然の中で遊んだ日々は、今も特別な思い出として残っている。

青々とした田んぼが広がる魚沼市。県外に住み、匂いから新潟の豊かな自然を思い出す人も多い=8月

 佐渡市出身で横浜市在住の女性(47)は、雨の降り始め、乾いたアスファルトがぬれる匂いで、幼少時代を思い出すという。「子どもの頃は雨の中でも平気で遊んでいた。青々とした田んぼや、カエルが鳴いている情景も一緒に浮かんでくる」

 また、三条市出身の男性(41)は、勤務する都内で思い出す新潟の匂いについて、背脂ラーメンを真っ先に上げた。...

残り3088文字(全文:3969文字)