[go: nahoru, domu]

北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

尖閣諸島防衛への一視点⑪ 理想はEFV?,現実はLAV-25,難しい防衛用水陸両用装甲車

2013-02-24 23:45:11 | 防衛・安全保障

◆今までの自衛隊に無かった装備体系

 防衛省は来年度予算に米水陸両用装甲車AAV-7を試験調達するとのことです。国産装備の重要性を説いている防衛産業関連の特集と相反する部分もありますが、これまで無かった技術は学ぶ、という姿勢は必要でしょう。

Img_4817 写真は89式装甲戦闘車ですが、今回導入されるAAV-7は陸上自衛隊が久々に導入する装軌式装甲車となります。このAAV-7は25名乗りの大型装甲車で陸上を72km/h、そして水上を13km/hで航行出来、島嶼部防衛において占領された我が領域に対し逆上陸任務を行える装備として期待されています。

Dimg_5168 しかし、89式装甲戦闘車は戦闘受領27t、全長6.8m、全幅3.2m、全高2.5mであるのに対し、AAV-7は重量24t、全長7.9m、全幅2.7m、全高3.26mとかなり大きく、原型のとなったLVTP-7は米軍へ1971年に配備開始、正直なところ設計面ではそこまで新しい装備ではありません。

Gimg_2232 AAV-7の導入は防衛用水陸両用装甲車の研究を行った防衛省が国内に技術基盤が無いとして参考品の取得として決定したものですが、米海兵隊では2010年まで、AAV-7の後継として洋上を25ノットで陸上に向かい、安定化された30mm機関砲により高い戦闘能力を有する将来水陸両用装甲車EFVが開発されていました。

Img_8533 EFVは2700馬力級という74式戦車のエンジンの三倍以上の高出力エンジンを搭載し洋上での高い機動力を備えていた野心的な装甲車でしたが、開発費の高騰と、そして取得費用が2000万ドルを超える費用が見込まれたため、米海兵隊ではAAV-7の延命改修を決定、EFVの開発を中止したという経緯があります。

Img_09_84 自衛隊としては、EFVが高速を要求された背景に米海兵隊が構想した水平線越の揚陸作戦、96浬程度の敵地上火力が届きにくい洋上からの揚陸作戦を念頭に性能が設定されており、96浬の行動半径があれば例えば宮古島から尖閣諸島までの展開も可能となるのですから、実用化されていれば興味があったのでしょうが、費用は恐らくUH-60JA多用途ヘリコプター並となったことでしょう。

Img_33_68 高コストから開発中止となったEFVですが、他方で現用のAAV-7についても老朽化は進んでいますので、いずれ後継車両は必要となります。ここで考えるのは、一応日本にも60式装甲車や73式装甲車に89式装甲戦闘車と装軌式装甲車の開発経験はあるため、共同開発としてアメリカのAAV-7後継車を開発できないか、ということ。

Mimg_1508 もしくは、米海兵隊には同じく老朽化が進むLAV-25装甲車があります。水陸両用式で長距離の洋上を機動する事は出来ませんが25mm機関砲を搭載した八輪式装甲車です。自衛隊には同じく八輪式の96式装備車輪装甲車がありますが、LAV-25は車幅は96式と同程度の2.5mで日本の道路事情にも合致するほか、アメリカとしてはC-17輸送機に並列二両を並べることが出来、有用な車両です。

Img_5285 LAV-25とAAV-7,全く経路が異なる車両ではあるのですが、これまで自衛隊が考えてこなかった両用戦任務に対応する装甲車で、日本には技術要素はあるものの、具体的にどのような装甲車として仕上げればよいのか、という経験や研究が無い、というものですので、この分野での日米協力は考えるのではないでしょうか。

Img_4407 LAV-25は、スイスのピラーニャⅠを原型とする装甲車であり、設計は非常に古いのですが、米海兵隊は欧州や米陸軍で過去のものとなりつつある装甲車の浮航能力を海兵隊という上陸任務を担う組織上必須のものとしていまして、これは浮く必要から重装甲を断念し設計されている車両が多いのですが、一方で日本は道路利用の観点から狭隘道路が多い国土を背景に車幅と必然的に装甲厚を犠牲とする装甲車を開発してきました。

Img_5855 実のところ、これは重要でして、世界の装輪装甲車は装甲防御をどんどん重視する設計に転換、ドイツのボクサー装甲車などは正面装甲が30mm機関砲弾に直撃に耐え、フランスのVBCIなど各国の装甲車も25mm機関砲弾に耐える重装甲へと向かっています。こうして必然的に大型化してしまう装甲車が多く、日本の道路には向かない外国製装甲車が増えているのです。海兵隊は前述の理由から大型化できず、揚陸艇や輸送機への搭載から車幅も大きくできない背景があるので、日本が求める大きくない装甲車と重なる要素をもっている、ということ。

Img_8985 AAV-7やその後継車EFVも欧州ではあまり考えられなくなっている上陸戦闘を海兵隊という任務城必要不可欠な装備であるため、米海兵隊としては今後とも何らかの後継車両を模索してゆくこととなるのでしょうが、この点で島嶼部での防衛を安全保障上防衛政策から除外できない日本と重なるところに気づきます。

Img_9912 もちろん、島嶼部防衛は空挺部隊や空中機動部隊によっても達成できる任務が多いのですが、橋頭堡確保には軽歩兵だけの強襲ではなく装甲車両が必要な状況も多々あります。この点から、必要性を異なる背景ではありますがともに有する日米において開発、もしくは技術基盤の共同研究だけでも実施することはできないでしょうか。

Img_5529 特に戦車の技術では駆動系の変速装置や懸架装置等で一応世界的に最先端を往く車両を開発しています。基本的に陸上車両の技術は水陸両用車両にどの程度応用できるかは、また別の話となってしまうかもしれませんが、日米だからこそできる部分、あるようにも考えます。

Img_3840 加えて、これは蛇足で、またその話か、と言われる方もいるでしょうが、南海トラフ地震を筆頭とした津波災害に対し、例えばLAV-25後継車両となるような水陸両用車両が各師団や旅団に一個大隊、可能ならば各普通科連隊の一個中隊に配備されていたならば、大災害という有事に人々を救う重要な装備ともなるでしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする