今回は、地味な漆器の皿、5枚です。
径 13.1㎝、底径 9.4㎝、高 1.7㎝。明治ー昭和。
外側が千筋になった黒漆塗り菓子皿です。
典型的な木轆轤挽きの品で、底が分厚く(1cm)、縁は薄く(1㎜弱)なっています。
これだけはっきりと木目が出ている漆器も珍しいです。
見込みには、3本の松が金で描かれています。
小さな絵ですが、精緻に描かれています。
5枚とも、非常によく似た描き方です。が、いつものように違い探しをすると、頭と目がこんがらかってくるの、今回はやめておきます(^^;
根引松は、地面からはえているような松、あるいはそれを抜いた根付きの松です。切らずに根が付いたままの若松は、地に足がついて順調に成長し続けるようにとの願いを込めて、正月飾りや縁起物に使われます。
実は、この松が、能舞台には必ず配置されています。
(佐成健太郎『謡曲大観 首巻』より)
能が演じられている舞台の左方には・・・
橋掛かりとよばれる廊下があります。
役者や囃子方が舞台へ出入るする所です。橋掛かりは、単なる通路ではなく、重要な意味をもっています。
能では、しばしば、亡霊が主人公です。幔幕があがると、橋掛かりをゆっくりと舞台(現世)へ動いていきます。橋掛かりは、あの世とこの世を繋ぐ所なのですね。能の最終場面、亡霊は、橋掛かりを静かに移動して、幕の内に消えていきます。それを見送るワキ(旅の僧侶など)が、2度、足を踏んで、一曲の能は終わります(留め拍子)。
橋掛かりの脇に植えられているのが、3本の根引松です。右から一の松、二の松、三の松とよばれ、大、中、小の大きさの違いがあり、遠近感を出すようになっています(上の図では同じ大きさ(^^;) また、面をつけているので視界が限られたシテにとって、根引松は大切な目印となります。
これは想像ですが、舞台後方の鏡板に描かれた大きな老松と橋掛かりの根引松(若松)とは、能が形成される過程で何か象徴的な意味をもっていたのかもしれません。